背徳の罠 第4話

「背徳の罠」第4話:揺らぐ信頼

真央は自宅のリビングで、一冊のノートを開いていた。その中には、夫・直人の行動記録と、彩花の情報がびっしりと書き込まれている。これまでの調査から得たデータは十分だ。だが、ただの事実では復讐は達成できない。「二人を引き裂く」には、相手同士の信頼を崩壊させる必要がある。

ノートを閉じると、彼女の頭の中で次のステップが形を成していく。

彩花への接近

翌日、真央は彩花のカフェを再び訪れた。今回の目的は明確だった。彩花に「直人という男の不誠実さ」を疑わせる伏線を仕掛けること。だが、正面から攻めるのではなく、あくまで自然な流れを装う必要があった。

「こんにちは。また来ちゃいました。」

真央がカウンターに座ると、彩花は少し驚いたようだったが、笑顔で応じた。

「こんにちは!ありがとうございます。お近くなんですか?」

「ええ、最近ちょっと気に入っちゃって。」

軽く雑談を交わした後、真央は何気ない口調で切り出した。

「そういえば、ちょっと聞いてもいいですか?男性の心理って、なんであんなに分からないんでしょうね。」

彩花は少し戸惑った表情を見せたが、興味深げに耳を傾けた。

「どういうことですか?」

真央は苦笑いを浮かべながら、夫の浮気を疑う妻を演じた。

「最近、夫が忙しいって言って家を空けることが増えたんです。なんだかスマホもよく隠すし……。私の気のせいならいいんですけど。」

彩花の表情が硬くなるのを真央は見逃さなかった。それは、彼女自身が「夫」という言葉に反応している証拠だ。

「そうなんですね……でも、きっとお仕事なんじゃないですか?」

「そうだといいんですけどね。まあ、女の勘ってやつですかね。」

真央は笑顔を浮かべながら言葉を締めくくった。だが、その裏で彩花の心に確実に小さな種を植え付けたと確信していた。

直人への罠

その夜、真央は夫・直人がシャワーを浴びている隙に、彼のスマホを手に取った。ロック解除はもう慣れたものだ。彼のメッセージアプリには、彩花とのやり取りが残されている。

「次の週末も楽しみにしてる」

「俺にとって君が一番大切だから」

その言葉を目にした瞬間、真央は怒りで手が震えた。しかし、怒りをぶつけるのではなく、それを利用する。彼女は彩花になりすまし、別のメッセージを送ることにした。

「今度会う時、あなたの奥さんのことを少し話してくれない?」

メッセージを送信してすぐ、履歴から削除する。そして何事もなかったかのようにスマホを元の場所に戻した。

これで直人は、彩花からの「奥さん」への関心を疑い始めるだろう。互いに信じているはずの二人の間に小さなひびが入る。それがやがて大きな亀裂となるのは時間の問題だった。

彩花の反応

数日後、真央は再びカフェを訪れた。だが、彩花の態度が微妙に変わっていることに気付いた。いつも笑顔を絶やさない彼女が、どこか沈んだ表情をしている。

「こんにちは。」

「……こんにちは。」

彩花の声は少しぎこちない。それでも、何とか会話を続けようとする真央の目には、彼女の迷いがはっきりと映っていた。

「最近、お忙しいんですか?」

「いえ、まあ……ちょっと色々あって。」

彩花が目をそらしたその瞬間、真央は確信した。直人との関係に何か問題が生じている。あのメッセージが効果を発揮したのだろう。

真央は、さらなる一手を考えながら、心の中でほくそ笑んでいた。

次なる計画

夜、自宅で直人が寝静まった後、真央は新しい作戦を練っていた。次は、彩花が直人に対して不信感を募らせる直接的な証拠を用意する必要がある。例えば、彼が他の女性にも同じような甘い言葉を送っていると信じ込ませるような偽の証拠だ。

「二人の絆なんて脆いもの。時間の問題よ……」

真央は復讐の成功が目前に迫っていることを感じながら、計画を加速させる決意を固めた。

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