背徳の罠 第3話

小説

「背徳の罠」第3話:揺れる仮面

その週末、真央は早朝から密かに準備を整えた。夫・直人が「仕事」と称して外出するのを見送った後、彼がどこへ向かうのかを追跡するためだ。

前夜、真央は彼のカバンに小型のGPS発信機を仕込んでおいた。それが今、スマートフォンの画面上でゆっくりと動いているのを確認する。彼は仕事場ではなく、都心から少し離れた閑静な住宅街へと向かっていた。

「やっぱりね……」

画面に示された目的地は、真央が既に把握していた彩花の住むマンションだった。全てが繋がった瞬間、怒りよりも冷たい冷静さが彼女の中を支配した。

対決の準備

真央は彩花のマンションの近くに車を停め、しばらくの間、様子を観察した。直人の姿がエントランスから消えるのを確認し、車内で待機する。時計の針が午後に差し掛かった頃、マンションの前に小さな配送車が停まった。

「いいタイミング……」

真央は配送員に近づき、親しげな笑顔で話しかけた。

「すみません、このマンションの301号室の方に荷物を届ける予定があるんですが、実は私、その人の知り合いで……代わりに受け取ってもいいですか?」

配送員は少し困惑したが、真央の人当たりの良さに押されて了承し、荷物を手渡した。その箱には「特注食器」と書かれている。真央は丁寧にお礼を言い、すぐさまエントランスへと向かう。

オートロックのドアを抜けるには少しの工夫が必要だったが、偶然出てきた住人に頼み込む形で簡単に通ることができた。真央はエレベーターで3階に向かい、301号室の前で立ち止まった。

「これが、奴らの巣……」

ドアの前に立ちながら、真央は胸の中で一つの賭けに出る決意をした。そのままノックをするのではなく、まずは部屋の音を確認する。耳をドアに押し当てると、微かに話し声が聞こえてきた。

敵との接触

しばらくその場で様子を窺った後、真央は部屋を離れ、手元のスマートフォンを取り出して彩花にメッセージを送ることにした。カフェで交換したSNSアカウントが役に立つ時が来た。

「こんにちは。この前は素敵なカフェに寄らせていただきありがとうございました。もしよろしければ、またお話ししたいです。」

メッセージを送信した直後、真央の指は震えていたが、それが興奮によるものか、怒りによるものか、自分でもわからなかった。

数分後、彩花から返事が届いた。

「こんにちは!こちらこそありがとうございました。ぜひまたお越しくださいね!」

彩花の気の抜けた返答に真央は嘲笑した。この女がどれだけ裏切りと嘘を重ねているのか――それを暴く時が来る。そのためにはもっと相手の信用を得る必要がある。

翌日、真央はカフェを再び訪れた。そして今回は、自分の生活がどれほど幸福で満ち足りているかを装う話題を振り、彩花に近づくことに成功した。

仕掛けられた疑念

カフェでの短い会話の中、真央はさりげなくこう切り出した。

「実は最近、夫が少し忙しそうなんですよね。よく出張や会議があるって言っていて。」

彩花の手が一瞬止まった。それを真央は見逃さなかった。

「そうなんですね……お仕事、大変そうですね。」

彩花は笑顔を作りながら答えたが、その笑みの裏に微妙な動揺が感じられる。

その瞬間、真央は確信した。彩花も直人に「妻の存在」を知っている。だが、それを認めたくないだけなのだ。

真央の中で、復讐の計画がさらに具体的な形を帯び始めた。彩花の心にまず小さな疑念を植え付ける。そして、それが膨らんだところで決定的な罠を仕掛ける。

カフェを出る際、真央は心の中で静かに呟いた。

「次は、もっと大きな一手を……」

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