背徳の罠 2話

小説

「背徳の罠」第2話:最初の一手

夜のカフェに訪れたその日から、真央の生活は「計画」に支配されるようになった。手帳の隅に書き留められた復讐のアイデアが、日々少しずつ現実の形を帯びていく。だが、これを進めるには相手を知る必要があった。彩花の弱点、そして直人がこの関係にどれだけのめり込んでいるのか。

翌週、真央は再び彩花のカフェを訪れた。何食わぬ顔でカウンター席に座り、周囲の様子を伺う。カフェはそれほど客が多いわけではない。真央が注文したカフェラテを彩花が丁寧に淹れる。ふと、彼女の左手の薬指が見えた。そこには指輪の跡がある。

「……離婚しているのかしら?」

真央の脳裏に一瞬、疑念が走る。だがその答えは今、どうでもよかった。彩花に関する情報をもっと得る必要がある。手帳には既に彼女のカフェの住所、店の営業時間、そして常連客の様子までが記されている。次は、直接接触して心を揺さぶる手段に出るべきだった。

「お店、素敵ですね」

真央は何気ない風を装って声をかけた。

「ありがとうございます。よく来られるんですか?」彩花は柔らかな笑顔を見せる。

その笑顔を見た瞬間、真央の中でふつふつと怒りが湧いた。この顔で直人を欺き、家庭を壊そうとしたのだと思うと、背筋が冷たくなるようだった。だが、それを表に出してはいけない。

「いえ、今日が2回目です。近くに住んでいるので、たまに寄らせてもらおうかなと思って。」

「そうなんですね。ぜひまたいらしてください。」

彩花の柔らかい返答を聞きながら、真央は一つの戦術を思いついた。「客としてカフェに通いながら彼女に近づき、油断させる」。表面的な友人関係を築き、その裏で全てを暴いていく。それが最初の一手だった。

直人の裏の顔

その夜、直人が帰宅すると、真央はいつものように笑顔で迎えた。彼のネクタイを外してやりながら、こう尋ねる。

「最近、仕事忙しいんでしょ?大丈夫?」

「ああ、まあね。今ちょっとプロジェクトが立て込んでてさ。」

彼の言葉にどこか曖昧さを感じた。だが、問い詰めることはしない。それよりも、自分がどれほど彼を信じているかを装う方が有効だ。直人の気を緩ませることで、より多くの情報を引き出せる。

真央はふと、自分の目に映ったスマートフォンのロック画面を見つめた。まだ解除して彼のメッセージを覗いたことはなかった。今度のタイミングで、それを確認する必要がある。だが、乱暴に動いてはいけない。直人は予想以上に用心深い性格だ。

「そういえば、週末は久々にどこか出かけない?」

「え?週末?ああ……その日は多分無理かも。仕事で会議があるんだ。」

瞬間、真央の胸の中で何かが弾ける音がした。それは真っ赤な嘘だ。直人が週末にどこにいるのかは、既に真央の手帳に記されている。

「そう……じゃあ、また別の日にね。」

冷静な声でそう答えた後、真央は静かにキッチンへと向かった。その手は、復讐という燃える計画の準備に震えていた。

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