背徳の罠

小説

「背徳の罠」第1話:消えた真実

雨が窓を叩きつける夜だった。

神崎真央(かんざきまお)は、夫・直人(なおと)のスマートフォンを握りしめ、震える指で画面を操作していた。画面には彼が隠していた真実が赤裸々に映し出されている。メッセージアプリの中、彼と知らない女性との親密すぎる会話が並んでいた。

「早く会いたい」

「彼女にはバレてないから大丈夫」

画面を閉じると、怒りと悲しみが押し寄せた。それまで優しい夫を演じていた直人が、この裏切りの行為を平然と続けていたとは信じられなかった。しかし、涙を流すだけでは済まされない。真央の中で冷たい決意が芽生えていた。

「絶対に許さない……」

翌朝、直人は何事もなかったかのようにスーツを着て出勤の準備をしていた。いつものように笑顔で「行ってくる」と言い、真央の頬にキスをする。その瞬間、真央は彼の偽りの優しさに寒気を覚えた。

その日、真央は結婚記念日に撮影した写真アルバムを取り出し、ページをめくった。あの頃の笑顔は偽りだったのか――。だが、写真の中に不自然な点を見つけた。直人のスマートフォンが写っているのだが、画面に見慣れない名前が浮かんでいた。「彩花(あやか)」という名前。

「この女が相手なのね……」

真央はその名前を頼りに調査を始めることにした。夫の行動パターンを細かく記録し、SNSや連絡先を洗い出した。数日後、彩花が地元で経営している小さなカフェを突き止めた。表向きはただの店主だが、その背後には何か隠されている気がした。

カフェに足を踏み入れると、暖かい雰囲気の中に彩花がいた。彼女は一見、無害そうな微笑みを浮かべている。しかし、真央はその微笑みの裏にあるものを見逃さなかった。彼女が夫と共犯で築いた秘密の時間が、この場所で育まれていたのだろう。

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

「ええ、コーヒーをお願いします」

彩花が淹れるコーヒーを待つ間、真央の胸には計画が浮かび上がっていた。ただ泣いて終わるつもりはない。この裏切りに対する復讐は、彩花だけでなく、直人にも徹底的に思い知らせてやる必要がある。

彼女はメモ帳を取り出し、復讐のシナリオを書き始めた。それは、静かで慎重、だが容赦ない計画だった。

「まずは、足元を崩すところから……」

雨は止む気配を見せず、真央の中の冷たい決意と共に、その音だけが響いていた。

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